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最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)52号 判決 1968年6月21日

上告人

優こと

柳沢瀀

代理人

鹿野琢見

被上告人

川島悌一

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第一点について。

弁護士が、懲戒処分を受けて弁護士業務を停止され、弁護士活動をすることを禁止されているときでも、裁判所によつて訴訟手続への関与を禁じられ、同手続から排除されないかぎり、その者のその間にした訴訟行為を有効と解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和四〇年(オ)第六二〇号、同四二年九月二七日大法廷判決、民集二一巻七号一九五九頁)。したがつて、上告人の本件第一、二審の訴訟代理人であつた弁護士中村忠純が業務停止の懲戒処分すなわち昭和四〇年六月一三日から同年九月二一日までにした訴訟行為および同弁護士に対して同期間にした訴訟行為は有効であるから、原審はその第二回口頭弁論期日呼出状を同弁護士に有効に送達したうえ、同年九月一七日の第二回口頭弁論期日において同弁護士不出頭のまま適法に弁論を終結したものというべきである。そして、同弁護士が同年九月二二日登録取消となつたことは本件記録中の第一東京弁護士会長発行の昭和四〇年一二月六日付証明書によつて明らかであるが、原審裁判所は、前記同年九月一七日の口頭弁論期日において、被上告人の代理人出頭、上告人の代理人(中村忠純)不出頭のまま口頭弁論を終結し、同裁判所の裁判長が判決言渡期日を同年一〇月一日と指定して当事者に告知したことは、本件記録によつて認められる。そして、このような判決言渡期日の告知が在廷しない当事者に対しても効力を有するものであることは当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和二三年オ第一九号、同年五月一八日第三小法廷判決、民集二巻五号一一五頁)。したがつて、本件判決言渡期日の告知および右判決言渡期日である同年一〇月一日上告人不出頭のままされた判決の言渡は、いずれも適法であるといわなければならない。そして、中村忠純が同年九月二二日弁護士の登録取消となつたことは前記のとおりであり、これによつて同人は同日以後非弁護士として上告人の訴訟代理人たる地位を失つたものというべきであるから、裁判所および当事者がこれに対して同日以後した訴訟行為は、上告人本人または権限ある者が追認しないかぎり、違法で、上告人本人に対して効力を生ぜず、したがつて、同年一〇月四日中村忠純に対してされた原判決の送達(この送達の事実は本件記録中の送達報告書の記載に照らし明らかである)は、特段の事情のないかぎり、違法である。しかしながら、上告人は中村忠純に対して原判決が送達されてから二週間以内に原判決に対して本件上告を提起し、かつ上告理由書提出期間内に上告理由書を提出し、原判決の内容について詳細に攻撃していることは本件記録および上告代理人鹿野琢見の上告理由書および同(第二)によつて明らかであるから、右中村忠純に送達された原判決の正本が上告人の手に現実に入つたものと認めるのが相当である。ところで、判決正本が誤つて第三者に送達された場合でも、送達を受くべき訴訟当事者がこれを現実に入手したときは送達が有効となることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和三七年(オ)第一五号、昭和三八年四月一二日第二小法廷判決、民集一七巻三号二六八頁)から、本件においては、結局、原判決の送達は有効となり、上告も適法にされたと解すべき特段の事情があるものというべきである。したがつて、原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二点二、第三点二および上告理由書(第二)について。

甲第一号証の末尾四行の部分を除いても原審の認定判断はその他の挙示の証拠によつて首肯でき、また、原審裁判所が上告人の代理人であつた中村忠純に対する関係でその登録取消前にした訴訟上の行為が有効であることは前記のとおりである。そうとすれば、所論は判決に影響しない違法を主張するか、原判決の認定と異なる事実あるいは原判決の認定しない事実に基づいて原判決の判断を非難するものであるか、あるいは原審裁判所が有効にした訴訟上の行為の効力を無効と主張するものである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第二点一および第三点一について。

所論の口頭弁論期日の呼出状が当時上告人の代理人であつた弁護士中村忠純宛に送達され、同人が現実に右呼出状を受領したことは本件記録上明らかであるから、右受領のときにおいて有効の送達があつたものというべきである。原判決には所論の違法はない。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、上告代理人鹿野琢見の上告理由書の上告理由第一点、第三点一および二に対する業務停止の懲戒処分の効果についての裁判官奥野健一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

裁判官奥野健一の反対意見は、次のとおりである。

懲戒処分として業務の停止を命じられた弁護士が、これに違反して、業務停止期間中訴訟代理人としてした代理行為は、一種の無権代理に類似し、追認がないかぎり、法律上無効と解すべきであり(最高裁判所昭和四〇年(オ)第六二〇号、同四二年九月二七日大法廷判決、民集二一巻七号一九六一頁以下の同裁判官の意見参照)、そして、右懲戒処分の効力がそれが当該弁護士に告知されたときに効力を生ずることは、前記最高裁判所大法廷判例の判示するところである。したがつて、追認したことの認められない本件においては、裁判所が上告人代理人としての中村忠純宛にした昭和四〇年七月二日の答弁書の送達以後の行為はすべて無効であるといわなければならず、結局本件の原審においては、中村忠純に適法な上告人の代理権がないのに、中村忠純に上告人の代理権があるとして訴訟手続がすすめられ、判決されたものであるから、原判決には民訴法三九五条一項四号の破棄事由があるものといわなければならない。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

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